ハス

こんにちは。

「イーハトーヴのくすり箱」管理人・ネリです。

 

新型コロナウイルスの感染拡大の中で、不安な日々をお過ごしの方も多いでしょう。

某国会議員の方をはじめとする、急激な体調変化による命の終焉…「死」というものを身近に感じる機会も多かったのではないでしょうか?

 

私が興味のある学びの中に死生学があります。「今」この一瞬をしっかり生きるには、いずれ皆に訪れる「死」と向きあう必要がある…。

memento mori , memento vivere

(メメント・モリ メメント・ウィウェーレ)

これは、私とこのサイトの大きなテーマのひとつです。

 

そんな私が凄く惹かれているのが、今回ご紹介する在宅医やとして活躍されている長尾和宏先生。著書「痛くない死に方」では、在宅医として数多くの患者さんを看取ってこられた長尾先生の言葉のひとつひとつが心に沁みます。

 

痛くない死に方・長尾和宏医師

出典:Amazon

 

今回はそんな長尾和宏先生と元気な時に読んでおきたい本「痛くない死に方」…そして、この本を原作とした間もなく公開の映画「痛くない死に方」についてご紹介したいと思います。良ければ最後までお付き合いくださいませ。

 

ハス

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長尾和宏(町医者・在宅終末期医療医師)プロフィール

長尾和宏先生は、1958年(昭和33年)6月生まれ。

香川県出身の長尾先生は1984年東京医科大学卒業後、大阪大学医学部付属病院の第二内科に入局。1986年からこちらで診療と研究を行ってこられました。

1993年市立芦屋病院の内科勤務をされ、1995年には尼崎市に長尾クリニッックを開院。

この長尾クリニックは1999年に医療法人社団裕和会に移行し、長尾先生が理事長に就任。

そこを拠点に外来と在宅医療を両立され、数多くの患者さんを看取ってこられました。

その数、病院で1000人以上、在宅で1000人以上…まさに看取りのプロフェッショナル!

 

そんな凄い長尾和宏医師ですが、趣味はゴルフと音楽。

あくまで「町医者」という言葉にこだわり、そのモットーが「町全体が私の病棟、自宅は世界最高の特別室」というのが凄いです。

 

「町医者」の長尾先生は日本慢性期医療協会理事、日本ホスピス在宅ケア研究会理事など数々の役職をされていますが、特筆したいのが副理事長をされている「日本尊厳死協会」

こちらでは、自分の意思が元気な間に、自分の希望する「最期」を記しておくリビング・ウイル(LW)が提案されています。

「リビング・ウイル」とは(日本尊厳死協会)

 

そこに至るまでの長尾先生の葛藤や医療現場の現実につていは、後にご紹介する「痛くない死に方」の感想で書きたいと思いますが、今の日本はこんなにも「自分らしく死ぬのが難しい国」なのか…と唸ってしまいます。

 

「尊厳死・平穏死」の在り方から、終末期医療、そして高齢者の健康を守る活動まで…たくさんの本や講演で提言されている長尾和宏先生。その知恵は、今後の超高齢化社会の中で誰もが知っておきたい基礎教養になってくるかもしれません。

長尾和宏医師オフィシャルホームページ

長尾和宏医師の「痛くない死に方」感想

①平穏死・尊厳死・安楽死

シニアライフ

 

まずは基本的な話として、日本における3つの「死」のパターンについて。

安楽死

人生の最終章に近付いた時に、本人が望んだ場合、医師が処方した薬物によって、意図的に死期を早めること。日本では違法で犯罪にあたる。

尊厳死

不治かつ末期の状態において、本人が望んだ場合、不要な延命治療をせずに、自然な最期を迎えること。

興味深いことは欧米では「尊厳死」に該当する言葉が存在しないこと。欧米では当たり前のことすぎて、その分類自体がないようです。

 

では、「平穏死」とは?

自然な成り行きに任せた死に方とされる「平穏死」は、同時に「尊厳死」にも繋がり、実は一番「痛くない死に方」であるとされています。

②痛すぎる大橋巨泉さんの死

私たちの世代ではクイズ・ダービーなどの名司会が今も記憶に残るタレント・大橋巨泉さん。

本書でも紹介されているその最期は、とても切ないものでした。

モルヒネの大量誤投与から急激な衰弱を招き、ついには寝たきりに…理想としていた在宅での死とはかけ離れた最期に、本人の家族も無念な想いをされています。

 

モルヒネをはじめとする医療用の麻薬は、正しく使えば闘病中の生活の質を大きく改善する心強いパートナーです。しかし、こういったことがあると麻薬(モルヒネ)=危険で死を招くもの…というイメージだけが先行し、必要な時に必要な人に届きにくくなっていきます。

 

「痛くない死に方」の中で、医療用麻薬の3つの誤解としてこう書かれています。

  • 中毒になる→なりません!
  • 死期を早める→早めません!
  • 最期に使う薬→違います!

もしあなたのドクターがこんな発言をしたのなら、緩和医療に詳しくないのかもしれません。

出典:痛くない死に方/長尾和宏

 

大橋巨泉さんの在宅を担当した医師の専門は皮膚科だったと言います。

もちろん皮膚科医でも在宅医療に詳しい先生はおられると思います。だけど、急激な在宅医療のニーズの増加に伴い、畑違いの先生が急ごしらえの「在宅医」を標榜されていたとしたら…その違いが分からない私たちにとって、それはまさしく生死をかけた選択になりかねません。

「死」は誰しも迎えるものなのに、それをきちんと学ぶ場があまりに少ないと思うのは私だけでしょうか?

③病院終末期の現実…平穏死の対極にあるベッド上での溺死

ほかにも本書には、たくさんの「終末期の現実」が紹介されています。

身につまされるのが、過剰な延命治療を続けて、不要な痛みと辛さを抱えながら亡くなっていく方々の話。それが、珍しい話じゃないんですね。なぜなら、病院は治療を行うところだから。運ばれてきた患者さんを生かそうとするところ…それが病院なんですね。

 

年と共に身体から水分が奪われて行くのは自然なこと。だけど、多くの日本人は人生の最後の10日間に過剰な点滴などの延命処置が行われ、心臓や肺に過剰な負担がかかり、心不全と肺気腫でベッドの上で溺れるようにもがき苦しみ、挙句の果てに鎮静剤で眠らされながら死んでしまう…というのです。

 

延命死≒ベッドの上での溺死…という言葉が衝撃的でした。

 

2012年には、日本老年医学会から人工栄養の中止に関するガイドラインができ、患者さんの不利益が利益を上回ると考えられる時は「撤退」という選択肢も入ったので、良い状況にはなってきていると思うのですが…。

少なくない医療者が、後で遺族から訴訟されたりしないか…という不安を回避するために、苦しむと分かっていても延命処置や点滴を行っている現実があります。

 

引用されていた葬儀屋さんの言葉が重かったです。

「自宅で平穏死した方のご遺体は軽い。

でも、大学病院で亡くなられた方のご遺体はずっしり重いんです。」

出典:痛くない死に方/長尾和宏

自宅で枯れるように死んでいった方と、病院で点滴をされながら溺れるように死んでしまった方とでは10㎏以上の体重差があるといいます。

では、どうすれば理想的な平穏死…すなわち「痛くない死に方」が出来るのでしょうか…?

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④痛くない死に方=枯れるように死んでいく「平穏死」

朝日

 

本のタイトルでもある「痛くない死に方」…その答えは、枯れるように死んでいく「平穏死」にあると長尾先生は仰っています。

人の一生とは、肉体の水分量が徐々に減り、枯れていく旅路。

内臓だけの話ではなく、外見だって肌や髪の毛、爪や目玉に至るまで若い頃に比べて乾いていきます。

(中略)肉体の枯れ、すなわち脱水は、終末期以降は”友”なのです。

出典:痛くない死に方/長尾和宏

 

人生の後半は「枯れていく」…これはアーユルヴェーダでも言われています。

60才以降は風と空の質を持つヴァータが増え、枯れて軽くなっていく…それはすごく自然なことなんですね。

 

 

終末期以降は自然の流れに身をまかせながら緩和ケアをしっかり行えば、それほど痛がったり苦しんだりせずに、楽にあの世に逝けるはず…という長尾医師の言葉が、アーユルヴェーダを学んでいる者としては凄くしっくりと腑に落ちました。

 

ネコ雲

 

では、溜まってきた胸水や腹水は穿刺で出して軽くすれば良いか…というと、それも違って、長尾医師は生命維持に必要なアルブミンなどの蛋白質を保つために、利尿剤を使って自然に排出することを提案されています。

とかく加療に目が行きがちですが、余計な治療を行わず、残された日々を健やかに過ごせるよう見守り、サポートする…何もせず「待つ」ことの大切さ。

下記の記事で書いた子育てに関しても言えることですが、「待つ」ということはとても人間らしく、同時に難しいことなのかもしれません。

 

 

⑤平穏死のための家族の選択…老親が餅を喉に詰まらせたとき救急車を呼ぶか否か

この本の中で、一番印象的だったのが「餅をのどに詰まらせた100才の患者さん」の話です。

 

家族は救急車を呼び、蘇生措置で息を吹き返されたのですが、その後急激に認知症が進行。介助なしで食事を楽しんでいたのに、うまく飲み込むことも出来なくなり、ついには中心静脈栄養に代わり胃ろうが造設。その後、自宅に帰ることはできない状態と判断され、そのまま次の老人病院へ移送…命は助かったものの、食べることも会話もできなくなったそうです。

 

生前「自然にポックリ逝きたい」と言っていても「リビング・ウイル」を残していなかったために、いざという時に家族は「何がなんでも命を助けてほしい」と要望してしまった。そして一度、延命治療が始まると、中止することは罪になるので止めることは難しいんです。

 

愛とエゴイズムは紙一重であることを忘れないでほしいと思います。

長尾先生の言葉にハッとさせられました。

自分の「愛」で相手が苦しむことは、誰も望んではいないことでしょう。

 

ご本人の希望を尊重するなら、窒息しても息が止まっていれば救急車を呼ばないという選択もあり得ます。

病院に運ぶということは、蘇生処置を希望し、生きていれば延命治療に至る可能性まで想定してください。

出典:痛くない死に方/長尾和宏

必要なのは「知識」と、結果も含めた全てを受け止め、受け入れる「覚悟」なのかもしれません。

新型コロナウイルスと長尾和宏医師

ちょうどこの記事を書いている時に、長尾和宏医師をTVで拝見する機会がありました。しかも、終末期在宅医療の方ではなく、新型コロナウイルスに罹患した患者を助ける医師として…です。

 

長尾クリニックでは、なかなか診察を受けられない発熱患者さんを積極的に診ておられます。換気や消毒を徹底し、検査時間を最短に出来るよう注意しながら‥結果、多くの隠れたコロナウイルスによる重症肺炎の患者さんが拾い上げられていました。

もし、この人たちが受診できなかったら‥でも、多くの場でそういうことがリアルに起こっているんですよね‥。

 

受け入れ先が見付からず、自宅療養になった患者さんを診察にいく時も細心の注意を払っておられる長尾先生。風評被害が出ないように、私服で、いかにも「知人が遊びにきたように」訪問されています。

 

とかくデータに頼りがちな今日の治療の中で、「視診で多くのことが分かる」という長尾先生の言葉に、対物ではなく対人としての本来の医療の在り方を感じます。長尾先生の様々な活動を見ていると、「医は仁術」という言葉が思い出されます。

 

薬剤師としても心のセットアップ面で、凄く刺激を受けました。厚生労働省から発表された患者のための薬局ビジョンでも「対物から対人へ」といわれている昨今、これからの医療者にはこういう心の持ち方が大切になってくることでしょう。

 

それなのに、発熱外来をしている‥ということで、いわれのない中傷や攻撃を受けることもあるというこの現実。長尾クリニックの割れた窓ガラスは、本当にいろんな意味で痛みを感じるものでした。

長尾和宏医師監修・映画「痛くない死に方」&ドキュメンタリー「けったいな町医者」

そんな長峡和宏先生の著書「痛くない死に方」を検索にした映画が、間もなく公開されます!

2月20日からシネスイッチ銀座などで、少し遅れて3月5日からはテアトル梅田など関西方面でも上映予定。モチロン、ネリも観に行きます!!

 

主人公の医師・河田仁役を演じるのは柄本佑さん。話題のTBS日曜劇場「天国と地獄~サイコな2人~」にも出演される、今、注目の若手俳優さんです。

医師として人として、葛藤を抱えながら多くの患者さんと向き合う真摯な若い医師を好演されています。

 

監督・脚本は高橋伴明さん。奈良県出身ということで勝手に親近感を感じますねー(*’ω’*)

脇を固める俳優さんが、坂井真紀さん・余貴美子さん・大谷直子さん・宇崎竜童さんと、これまたものすごい豪華なラインナップ。特に、主人公が深くかかわる末期がん患者を演じる宇崎竜童さんは予告編を見ているだけで沁みます。

そして注目が奥田瑛二さんが演じる医師・長野浩平…彼は長尾先生がモデルとなっているそうで、映画の中でのメッセージが気になるところです。

 

予告編で「待てる医者になれ」という言葉がありましたが、お医者さんだけでなく、とかく今の世の中、効率化の名のもとに「待つ」ということが難しいのかもしれません。

大切なものを置き去りにしてしまわないために、「待つ」ということを心掛けていきたいですね。

 

まって(Wait)

出典:Amazon

 

本自体がとても分かりやすく描かれていた「痛くない死に方」ですが、映画化されることによってストーリーに感情移入しやすく、より多くのことが感じられそうです。

客観的に知識として学べた書籍「痛くない死に方」と、色んな登場人物の立場で死ぬこと‥そして生きることと、しっかり向き合うことが出来そうな映画「痛くない死に方」。さらに、長尾和宏医師そのものを追ったドキュメンタリー映画「けったいな町医者」も公開されており、こちらも併せてみることで、さらに命の在り方について深い理解が得られそうな気がしています。

 

最初にも述べたように、「死」ときちんと向き合うことは、今の「生」を大事にすることだと、私は感じています。「生前葬」や「棺桶に入る体験」をすることで、生き方が変わったという話も聞きます。

最近は「終活」という言葉も一般的に知られるようになり、市町村で取り組むところも増えてきました。

終活の相談窓口~市町村のエンディングノートの特徴とおすすめノート5選

 

「死」という重いテーマに余裕をもって向き合えるのは、元気に過ごしている間だからこそかもしれません。そして、その瞬間に備えて少しずつ準備していくことが、命の終幕へのソフトランディング…そして安らかな平穏死に繋がっていくような気がします。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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まとめ

  1. 長尾和宏医師は「町医者」をポリシーとする在宅医療のスペシャリスト
  2. 「痛くない死に方」のポイントは枯れて死ぬ「平穏死」
  3. 麻薬は決して怖くない、上手く使えば、より良い生活を送るための心強いパートナー
  4. 在宅医を選ぶときは慎重に
  5. 生前に自分の希望する最期を伝える「リビング・ウイル」を残しておくことが大切
  6. 病院で最期を迎えると延命処置の点滴などで溺れるような苦しみを受けることも…
  7. 救急車を呼ぶということは「延命治療をお願いします」という意志表示…延命治療は始めると止めることが難しい
  8. 映画「痛くない死に方」は、高橋伴明監督、柄本佑さん主演で間もなく公開。長尾和宏医師のドキュメンタリー映画「けったいな町医者」も併せて要チェック!

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